真珠のてり(照り)とは
真珠の「てり」は、一般的に、「輝き、光沢」のことだと言われます。
確かに、【てり=輝き光沢】で大雑把には合っているのですが、正確に言うと違います。
「てり」とは、「色彩をともなった輝き」というべきものなのです。
ここでは、真珠の「てり」とは何か、について解説していこうと思います。
- 生物が生み出した真珠、その輝きの秘密
- 干渉色 -真珠の輝きの秘密その①-
- 多層構造 -真珠の輝きの秘密その②-
- 球体 -真珠の輝きの秘密その③-
- てりの良い真珠の条件
- てりの見分け方
- 日本の真珠がいちばん美しい
生物が生み出した真珠、その輝きの秘密
真珠は、貝から取り出された、自然の状態で、美しい輝きを放ちます。
比べて、ダイヤモンドなどの鉱物は、未研磨の状態では美しい輝きを見せません。
真珠は、自然のままで美しい、ごくごくまれな宝石なのです。
その秘密は、3つの要因によります。
- 秘密その① 干渉色
- 秘密その② 多層構造
- 秘密その③ 球体
この3つについて、いまから説明していこうと思います。
干渉色 -真珠の輝きの秘密その①-
Alexas_FotosによるPixabayからの画像
干渉色とは、複数の光が重なりあうことで、生まれる色あいです。
例えば、シャボン玉にみられる虹色の光。これが干渉色です。
シャボン玉では、膜の内側と外側で、光の反射がおこります。
その二つの反射光が重なることで、ある色は強められ、ある色は弱まります。
シャボン玉の膜は厚みにバラつきがあるので、
ある場所ではブルーの色が強く、ある場所ではレッドの色が強く、という風に
いろいろな色が出てきます。
この干渉色によって、美しい虹色が出現するのです。
真珠の輝きも、基本となる原理はシャボン玉と一緒です。
真珠の複雑な色あいの輝きは、干渉色から生み出されるのです。
これが、真珠の輝きの秘密その①です。
多層構造 -真珠の輝きの秘密その②-
真珠の輝きの秘密その②は、この干渉色を生み出す層が、とてもたくさん積み重なっていることです。
真珠貝が、元となる「核」の上に薄い真珠層を何百何千と巻いていくことで、真珠は出来上がります。
(真珠層の厚みは、0.3~05ミクロン[0.0003mm〜0.0005mm]といわれます。)
シャボン玉の場合、干渉色は二つの光が重なりあうだけで、とても単純でした。
真珠の場合では、極々薄い真珠層において、何百回何千回と、光が干渉を繰り返すことで、複雑で豊かな色合いの輝きが生まれるのです。
この多層構造に由来する、複雑で豊かな干渉色が、真珠の輝きの秘密その②です。
球体 -真珠の輝きの秘密その③-
貝殻の「てり」と、真珠の「てり」
この2つは、同じ原理で生まれるのですが、なにかが違いますよね。
真珠は、「透明感がある」とか「すっとしている」とか言われます。
実はこの違い、
「球体」という形から生まれる違いなのです
Gerd AltmannによるPixabayからの画像
裸のままの電球、ピカッとしていて、眩しくて、そのままでは目に痛いような感じがしますね。
そんな電球でも、布でできたランプシェードを被せてあげれば、やさしく、落ち着いた感じになると思います。
Free-PhotosによるPixabayからの画像
電球から出た鋭い光は、ランプシェードで透過し、拡散して、優しい光に変わるのです。
これと似たような、現象が、真珠においてもおこります。
(強い光を真珠に当てた写真。光が透過拡散して優しい光に変わっていることが分かります。)
真珠に入っていく光は、真珠層に当たって、一部は反射され、一部は透過(通り抜けること)します。
真珠は球面であるので、いろいろな角度で、光を曲げていきます(屈折)。
通り抜けた光は、また次の真珠層で、一部は反射され、一部は透過し、と、
これを何百回何千回と繰り返し、屈折しながら、真珠の全ての面から出ていきます。
その結果、皆様の目に入る光は、やさしく、透明感のある光へと変わっているのです。
これが、「真珠の輝きの秘密 その③ 球体」です。
真珠の輝きの秘密 まとめ
「秘密その① 干渉色」によって発せられた光が、
↓
「秘密その② 多層構造」によって、複雑で豊かな色合いを持ったに変化して、
↓
「秘密その③ 球体」まるい全ての面から、やさしい輝きを放つ。
これが、真珠の「てり」の正体なのです。
てりの良い真珠の条件
では、真珠が美しい「てり」を持つためには、どのような条件が必要なのでしょうか?
- 0.4mm以上の巻き(真珠層の量)
- 真珠層が整然と、キレイに並んでいること(真珠層の質)
この二つの本質的な条件を満たした場合、美しい「てり」が現れます。
本質的でない条件として、表面が滑らかであることが必要です。
表面にキズがある真珠や、お手入れを怠って汚れがついている真珠には、美しいてりが現れません。
「てり」の見分け方
てりとは、「色彩をともなった輝き」のことです。
てりは、「輝き」と「色」という要素に分けられます。
この二つの要素を分けて注目してください。
「てりの良い真珠」と「てりの悪い真珠」を見分けることができるようになりますよ。
「輝き」の要素
ご自分の顔を真珠に映すようにして見てみてください。
てりの良い真珠は、自分の顔が、よりはっきりと、鮮明に映ります。
それでも分かりにくい場合は、真珠に映っている照明に注目してください。
てりの良い真珠は、照明の像も、より鮮明に映ります。
「色」の要素
(真珠表面に浮き出ているレッドやグリーンの色あいが干渉色です。)
真珠には、干渉色という、レッドやグリーンの色あいが、輝きとともに発生します。
真珠の中央部分「照明が当たって白くなっている所のまわり」をよく見てください。
てりの良い真珠には、レッドやグリーンが、濃い色あいで出現します。
(レッドとグリーンの比率は真珠の個性によって違います。)
てりの見分け方 まとめ
- ご自分の顔がハッキリと写っているかどうか?
- 照明像の周りにレッドやグリーンが濃く出ているか?
真珠を見比べる時は、この二つに注意して見てみてください。
「てり」の良し悪しがよく分かりますよ。
日本の真珠がいちばん美しい
「真珠の美しさを語るなかで最も重要な『テリ(輝き)』という要素で比べると、アコヤ真珠が世界最高位であることは確かです。」
小松博 真珠科学研究所所長が、その共著書「ニッポンの真珠がいちばん美しい」の中で述べられています。
南洋白蝶真珠、淡水真珠などは、日本のアコヤ真珠に近い色合いで、より大きい真珠を養殖することができます。
しかし、「てり」という要素で考えると、日本の真珠がいちばん美しいのでは、と思えます。
その美しさとは、あざやかな光をともなった輝きが、しっとりとやさしく放たれることにあります。
その美しさの秘密は、「干渉色」「多層構造」「球体」から生まれるのです。
「てり」の美しい日本の真珠は、この世で最も美しいものの一つではないでしょうか。
まとめ
今回は、真珠の「てり」について解説してみました。
大事なところをまとめてみます。
美しいてりが発生する原因は、以下の三つの秘密に隠されていました。
- 秘密その① 干渉色
- 秘密その② 多層構造
- 秘密その③ 球体
美しいてりが発生するには、以下の二つの要素が必要です。
- 0.4mm以上の巻き(真珠層の量)
- 真珠層が整然と、キレイに並んでいること(真珠層の質)
美しいてりを見分けるには、以下の二つに注目してください。
- ご自分の顔がハッキリと写っているかどうか?
- 照明像の周りにレッドやグリーンが濃く出ているか?
みなさまも是非、真珠の「てり」を堪能していただければと思います!
参考文献
『真珠の知識と販売技術』 小松博・増渕邦治・村上逍 著 繊研新聞社
『ニッポンの真珠がいちばん美しい』 小松博・いなとみのえ 著 繊研新聞社
『真珠に関する三つの誤謬論 -三つの本質論』 小松博 著 真珠科学研究所
『真珠21世紀論』 小松博 著 真珠科学研究所
アメリカ宝石学会公認鑑定士(GIA.G.G.)
Gemological Institute of America Graduate Gemologist
ダイヤモンド卸、宝飾メーカー勤務を経て、創業60年の老舗、井上真珠店に勤務。現在は暖簾分けされた宇和島イノウエパールの代表。
パール専門小売店にて「お客様一人一人と向き合う接客」をモットーに、お客様の希望や体型をヒアリングの上、仕入れから最終仕上げまでを行い、累計1,000本以上のネックレスを販売してきました。