なぜ今、真珠は高いのか——統計で見る2026年の価格高騰の理由
「真珠が高くなった」と感じるのは、思い込みではありません。
全国の真珠単価は、令和2年(2020年)の3,191円/匁から、令和6年(2024年)には11,596円/匁まで上昇しました。4年でおよそ3.6倍です。
この記事では、なぜこれほど値上がりしているのか、公的な統計と報道をもとに、1965年の創業以来60年以上真珠を扱ってきた専門店の立場から整理します。

結論:2つの要因が重なっています
- ① きっかけ:稚貝の大量死で品薄に
2019年以降のアコヤガイのウイルス感染・大量死(原因はビルナウイルス科の新種ウイルス、2022年に特定)。真珠の養殖には孵化から約2年育てた母貝が必要なため、稚貝の被害は2〜3年後の生産量に直撃します。 - ② メインの原因:海外での人気
供給が減っただけでなく、海外の需要が一気に増えたことが値上がりを加速させました。
順番に見ていきます。
①きっかけ:稚貝の大量死で品薄に
2019年から3年連続で、アコヤガイの稚貝・母貝が大量に死ぬ現象が発生しました。
原因は長らく不明でしたが、令和4年(2022年)2月、国立研究開発法人水産研究・教育機構と愛媛県農林水産研究所水産研究センターの共同発表により、ビルナウイルス科の新種ウイルスが原因と特定されました。
真珠養殖には、孵化から約2年間育てたアコヤガイを使います。
つまり、稚貝の被害は数年遅れて真珠の生産量に影響する構造があります。
農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」によれば、全国の真珠生産量は、被害が本格化する前の平成30年(2018年)に約20.6トンありました。
それが令和3年(2021年)以降は12トン程度で推移しています。4割ほどの減少です。
②メインの原因:海外での人気
供給が減っただけなら、価格は緩やかに上がる程度で済んだかもしれません。
実際の値上がり幅がここまで大きくなった主因は、海外での需要の急増です。
理由は2つあります。
- トレンドに火がついたこと
- もともと日本の真珠が「割安」だったこと
トレンドについて
中国では、習近平国家主席の夫人・彭麗媛氏が公の場でたびたび真珠を身に着けていたことがきっかけと言われており、2010年代から中国国内での真珠人気が徐々に高まっていきました。
2022〜2023年ごろには、若い世代を中心に爆発的なブームとなり、「値上がりは金より激しい」とも評されました。2013年ごろに約10万円で販売されていた8mmのアコヤセットが、2023年には30万円前後まで上昇しています。
欧米では、2020年ごろからK-POPアイドルの着用をきっかけにパールアクセサリーが広がり始めました。
近年は性別を問わない着け方も浸透し、海外の著名人が男性用としてパールネックレスを身につける例も増えています。クラシカルなスタイルへの回帰という側面もありそうです。
もう一つ、SDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりも追い風になっています。
紛争地域や不透明な産地の宝石を避け、産地が明確なジュエリーを選ぶ動きが、欧米のブランドを中心に2010年代半ば以降広がってきました。計画的に養殖される日本の真珠は、この流れに合致しています。
ジュエリージャーナリストの本間恵子氏は「欧米のブランドを中心に、産地の明確さやクリーンさに敏感になっている。そのなかで日本産真珠は品質の良さが評価されている」と指摘しています(日本経済新聞2023年6月14日)。
「割安」だったことについて
過去30年ほど、真珠の主な買い手は日本国内の消費者でした。
その間、日本はデフレで物価も賃金もほとんど動かず、真珠の値段も据え置かれたままでした。
一方、海外の物価は右肩上がりで上昇を続けていました。同じ期間で比べると、日本の値段は世界の中で相対的にどんどん「安い」ほうへ移動していったことになります。
これは真珠に限った話ではなく、近年よく指摘される「安いニッポン」現象と同じ構造です。
海外の目が日本の真珠に向いたとき、すでにかなり割安な状態になっていたのです。
海外での真珠ブームは、急激な円安の時期とも重なりました。
円安は、日本円建ての値上がりを、海外の目には割安に見せる効果があります。
値上がりしても「安い」という感覚が薄れなかったため、海外からの買いは続き、価格はさらに押し上げられました。
宇和島・愛媛では今、何が起きているか

愛媛県は、真珠生産量・共同販売実績額のいずれも全国トップクラスの産地です。
愛媛新聞(2026年5月29日)の報道によると、2025年度の愛媛県真珠生産量は4,600kgで、前年度の4,095kgから12.3%増加しました。都道府県別では5年連続で全国2位、全国シェアは35%です。
生産量が回復基調にあることは、良い兆しといえます。
ただし、県漁業協同組合は「中国を中心にアジアや欧米で日本の真珠は評価が高く、世界市場が伸びている。しばらくは高値で推移するのではないか」とコメントしています。
中国の買い支えは2024年ごろから一服していますが、需要の裾野は広がっています。
日本真珠輸出組合によると、真珠の輸出額は2022年に237億円まで回復し、コロナ前の水準を超える勢いです。輸出先別に見ると、2022年は香港が中心ながら、米国が前年比15%増、タイが29%増、EUが15%増と、香港以外への広がりも進んでいます(日本経済新聞2023年6月14日)。
実は、宇和島の真珠養殖にとって、貝の大量死は今回が初めてではありません。1996年にもアコヤ貝の大量へい死が発生し、愛媛の生産量は全盛期の3分の1以下にまで落ち込んだ記録があります。その後、宇和島の生産者たちは技術改良を重ね、2001年には生産量で全国トップに復帰しました。
今回の危機も、過去に一度乗り越えてきた道と重なります。詳しい経緯は、当店の「宇和島の真珠養殖の歴史」で紹介しています。
値上がりのもう一つの側面
ここまで、消費者から見た値上がりの背景をお伝えしてきました。
ただ、値上がりには、もう一つ知っておいていただきたい側面があります。
真珠養殖業界には、長年抱えてきた問題があります。後継者不足による廃業です。
水産庁の統計によると、全国で真珠養殖を営む経営体数は、1993年の2,097から2023年には474まで、30年で約8割減りました。
この構造的な原因は、長年真珠の値段が安く、採算が取りづらかったことにあります。儲からない仕事に、次の世代が就きたがらなかったのです。一時は、産地の存続すら危ぶまれるほどでした。
それでも、残った養殖業者たちは知恵を絞ってきました。愛媛大学の調査(淡野・山下、2017年)によると、病気に強い新品種の母貝や、効率的な処理技術の導入によって、少ない経営体数でも質の高い真珠を安定して生産する体制を築いてきたことが分かっています。
今回の値上がりは、そうして踏みとどまってきた養殖業界にとって、事業を続けやすくなる側面があります。
消費者としては歓迎しづらい値上がりですが、産地の存続という視点も、知っていただけたらと思います。
「今後どうなるか」への誠実な回答
「値段はいつまで高いままなのか」——多くの方が知りたいのは、この一点だと思います。
正直にお答えすると、断言はできません。
ただし、ここまで見てきた構造的な要因を整理すると、判断材料は見えてきます。
- 供給は徐々に回復しつつありますが、養殖できる量には海の環境という自然な上限があります
- 後継者不足で細ってきた業界の担い手が、値上がりを機に増えるまでには時間がかかります
- 海外の需要は増加傾向にあり、当面弱まる材料は見当たりません
これらを踏まえると、短期間でデフレ期の水準まで値段が戻る可能性は高くない、というのが公的統計から導ける見立てです。
「昔の値段で買う方法はないか」——よくいただく質問です。
正直にお答えすると、昔の値段は今思えば破格でした。
金の価格も、日経平均株価も、同じように上がり続けています。
「これほど上がると分かっていたら買っていたのに」——みんなそう思っているはずです。
過去の値段を振り返っても、正直なところあまり意味はありません。
「安くなったら買おう」と待つより、今の価格の中でベストな一本を選ぶ——それが、結果的に後悔のない選び方だと思います。
価格が上がった今だからこそ、見極める目が必要
値段が上がっている今だからこそ、注意したいことがあります。
それは、「高いから良いもの」とは限らない、ということです。
供給が減り需要が増える局面では、品質の伴わない真珠にも高い値がつきやすくなります。だからこそ、価格の裏にある品質を見極める目が、これまで以上に重要になります。
真珠の価値を決めるのは、テリ・まき・キズ・かたちといった品質要素であり、値段の高さそのものではありません。
しっかりとした巻きと、美しいテリが重要です。当店では、真珠本来の色が楽しめる、こだわりの無調色をメインに取り揃えております。
一生ものとして選ぶなら、鑑定書の有無としっかりとした巻きを、必ず確認していただきたいと思います。
イノウエパールが選び抜いている真珠

イノウエパールでは、無調色・厚巻きで「てり」の美しい真珠をメインに選び抜いています。調色の真珠も少量扱っていますが、テリ・巻きの品質基準はどちらも変わりません。ほとんどの商品に鑑定書を付けており、世界に一本の真珠を、誠実な品質でお届けすることを大切にしています。
価格の動きが気になる方は、まずは当店の真珠を実際にご覧いただき、品質を確かめていただければと思います。
無料の資料請求では、サイズの異なる真珠サンプルを同封しています。ネット上の情報だけで判断せず、実物の大きさ・てりを手元で確かめてから選んでいただけます。
特別な日も、そうじゃない日も。一生に一本の真珠選びのお手伝いができれば幸いです。
あわせて読みたい
「なぜ高いのか」の背景を知った上で、「では実際にいくら出せば良いものが買えるのか」が気になる方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
この記事が価格高騰の「理由」を扱うのに対し、以下の記事は価格帯ごとの「相場」そのものを解説しています。
参考資料
- 日本経済新聞「真珠価格3年で2倍 宝石にも広がる倫理性重視の波」(2023年6月14日)
- THE NIKKEI MAGAZINE「アコヤ真珠 世界から注目を浴び続ける理由とは?」
- 国立研究開発法人 水産研究・教育機構「アコヤガイの大量死の原因病原体(ウイルス)を特定」プレスリリース(令和4年2月1日)
- 水産庁「アコヤガイへい死について」(令和5年7月)
- 愛媛県「真珠養殖生産の推移(昭和39〜令和6年)」愛媛県農林水産統計年報
- 水産庁「真珠養殖業・真珠母貝養殖業の経営体数」(漁業センサス「営んだ経営体数」)
- 淡野寧彦・山下奈美「愛媛県宇和島市における真珠養殖業の存続形態-宇和島漁協管轄内を事例に-」『愛媛大学社会共創学部紀要』第1巻第2号、2017年
- 愛媛新聞「愛媛の真珠生産量 前年比12.3%増 25年産4600キロ」(2026年5月29日)
- 36Kr Japan「「値上がりは金より激しい」中国の若者が真珠に熱狂、日本のアコヤが価格暴騰」
- イノウエパール「宇和島の真珠養殖の歴史」
米国宝石学会(GIA)公認鑑定士・Graduate Gemologist(G.G.)
真珠科学研究所認定 テリマスター/真珠C・E(クリーニング&エステ)マスター
株式会社Inoue Pearl(イノウエパール)代表。
ダイヤモンド卸・宝飾メーカー勤務を経て、1965年創業の真珠専門店「有限会社井上真珠店」に参画。2016年、井上真珠店松山店からのれん分けして独立した。
生まれも育ちも愛媛県宇和島市。宇和島で真珠養殖を始めた祖父から数えると3代目となる。
厚巻き・強てりを品質の原則とし、自社基準を満たさない真珠は取り扱わない。ほぼ全商品に真珠科学研究所または真珠総合研究所の鑑定書を付与。無調色真珠をメインに扱う。累計1,000本以上のアコヤ真珠ネックレスを自社にて選別・販売してきた。
実店舗は愛媛県松山市。公式オンラインショップ(https://shop.i-pearl.co.jp/)でも販売中。




