
花珠真珠とは?その意味とオーロラ花珠について
これは花珠だから高級品ですよ!
なんてテレビショッピングやデパートの売り場でよく聞きますよね。
しかし実は、「花珠(ハナダマ)」がどんな真珠をあらわすのか、明確に定まっているわけではありません。
ですので、「花珠」という言葉は、使う人にとって都合の良い意味で使われていることも多いのです。
ここでは、そんな曖昧な言葉である「花珠」について、一般的な意味合いと、鑑定書のグレードとしての意味合い、二つの面に注目して解説していきたいと思います。
- 花珠の由来
- 品質を表す言葉としての花珠
- 鑑定書のグレードとしての花珠
- 花珠鑑定書とは
- オーロラ花珠とは
- 花珠の中での品質の差
- 真珠科学研究所と真珠総合研究所の違い
- アイテム毎の違い
- 花珠の選び方
- まとめ
花珠の由来
「この珠はハナダマやけんのお」
子供の頃から、真珠養殖業から「ハナダマ」という言葉をよく聞きました。
「ハナダマ」という言葉は、真珠養殖をしていた筆者の祖父の代から使われていた、ということなので、 少なくとも戦前戦後くらいには愛媛の養殖業者の間では普通に使われていたようです。
そもそもは”端珠”が語源と言われる。三重県の漁民の間では”漁のハナ”、すなわち漁の一番乗りという意味で”端”の字を使い、ハナを競う時に使われたという。いずれにしてもトップクラスという点では昔も今も同じではあるが。
『ニッポンの真珠がいちばん美しい』 小松博 いなとみのえ 著 繊研新聞社
この本によると、「花珠(ハナダマ)」はそもそも「端珠(ハナダマ)」であり、トップの真珠の意味で使われていたそうです。
おそらくは、それが転じて、花の美しさを連想させる「花珠」という表記となったのではないでしょうか。
なお、花珠は日本産のアコヤ真珠に使われる言葉で、海外の真珠には使われません。
品質を表す言葉としての花珠
花珠の意味は、広義では「トップクラスの美しい真珠」という意味です。
しかし、その「美しさ」がどの程度を指すかは厳密ではなく、それが混乱の原因となっています。
一般的に使われる言葉としての花珠
一般的に「キレイな真珠」ぐらいの意味で使われる「花珠」は、ボンヤリとした意味です。 ですので、それが「花珠」かどうかは、その言葉を使う人の主観によって決まります。
- ある人はキズがあっても輝きが強ければ「花珠」と呼ぶ
- ある人はキズのない真珠を「花珠」と呼ぶ
というように、その人にとっての「花珠」があります。
一般的な意味で使われる「花珠」は、購入の際に参考にするような言葉ではないと思います。
入札会での一級品をさす言葉としての花珠
浜揚げされた真珠が業者に販売される場である入札会。 その入札会では、真珠は一級品と二級品に分けられます。
その一級品の中で以下の条件を満たすものが花珠と呼ばれます。
花珠— 真円、無キズ、厚巻き、赤み色、輝きが備わっている珠
『真珠の加工 仕入れから販売まで』 竹内恭一 著 真珠新聞社
こちらで使われる花珠という言葉も厳密に定義されている言葉ではありませんが、 それが指し示す品質は、関係者の間ではある程度共有されています。
一般に使われる言葉よりは、若干厳密なプロ向けの言葉です。
鑑定書のグレードとしての花珠
最も厳密な意味での「花珠」は、鑑定書の品質グレードとしての花珠です。 (真珠科学研究所の花珠は「オーロラ花珠」という呼称です。)
こちらは、それぞれの鑑定機関の基準をクリアした真珠にあたえられる呼称です。 基準がはっきりしています。
鑑定機関とは
しかし、鑑定機関にもいろいろな会社があり、「花珠」の記載があっても、 どの鑑定機関が発行したかによって、信頼性が大きく違います。
鑑定機関とは、宝石の鑑定鑑別を行う会社です。 大事なことは、鑑定機関は全て私的な会社で、公的な組織ではないことです。
鑑定機関の中には、料金を払えば小売店の言う通りのグレードをつける、商売ありきの鑑定機関も存在します。
鑑定書のクラスをみる前に、その鑑定機関が信頼のおける会社かどうかを見極める必要があります。
真珠のグレーディングの特異性
ダイヤやルビーなど、鉱物由来の宝石と比べると、生物から生まれる宝石である真珠は、その構造が大きく違います。
よって、ダイヤの4Cの基準を流用することができず、グレーディングをすることが難しい宝石です。
AGTやCGLなど、ダイヤモンドなどで信頼のおける鑑定機関でも、真珠の鑑定では一定の評価を得ていません。 その理由は、「生物から生まれた宝石」という、真珠の特異性にあります。
しかし、以下で紹介する真珠専門の鑑定機関においては、真珠の鑑定方法が確立されており、一定の信頼をおくことができます。
真珠において信頼のおける鑑定機関は2つだけ
- 真珠科学研究所
- 真珠総合研究所
真珠において信頼のおける鑑定機関は、上記2つです。
そのほかの鑑定機関で「花珠」の表記があったとしても、信頼がおけるものではありません。 もちろん、自社で発行する鑑定書などは、客観性がないため論外です。
花珠鑑定書とは
花珠鑑定書が市場に姿を表したのは、90年代のことです。 ちょうどその頃、ダイヤモンドでは鑑定書が付くことが一般的になっていました。
「どうして真珠には鑑定書がつかないの?」 そんな消費者のニーズとタイミングがうまくマッチして、「花珠」の鑑定書は瞬く間に業界に広がっていきました。
花珠が登場する前の真珠業界の状況について
花珠の鑑定書が人気を得ていったことには、以下の二つの背景があると思われます。
- 真珠の品質を見分けるための情報が少なく、消費者と販売者の間の情報格差があったこと
- 低品質の真珠が大量に出回っていたこと
当時は、現在のようにインターネットも普及しておらず、真珠についての情報が少ない状況でした。
そのような状況で、大量に出回っていた低品質の真珠を、口のうまい販売員が高額で販売することが多かったのです。
(現代でもまだ多いですが。。)
粗悪な真珠でも口がうまければ高く売れる
↓
高く売れるから、粗悪な真珠がドンドン流通する
という悪循環にありました。
花珠鑑定書によって良くなったこと
そんな状況が、花珠鑑定書の登場によって、徐々に改善するようになりました。
花珠鑑定書の存在が、真珠の品質を見分ける基準となり、消費者が良い真珠と悪い真珠を見分けやすくなったのです。
その結果、低品質の真珠を高額で販売する、悪質な業者が減りました。
(減っただけでまだまだいますが。。)
そして、花珠が登場することによって、 科学的に真珠の品質を数値化して判断するという考え方が広まっていきました。
花珠鑑定書によって悪くなったこと
とはいえ、良いことだけではありません。悪くなった点として、以下のものがあります。
- 花珠以上の真珠の良さが消費者に伝えられなくなった
「花珠」という基準は高品質の真珠の証明ではありますが、最高品質の証明ではありません。
乱暴に言ってしまえば、「花珠」は100点満点中でいえば70-80点程度の真珠です。
その70点の品質が有名になることによって、70点でも100点でも、同じ品質だと思われることが多くなりました。
とはいえ現在では、花珠の中でも「天女」という上級グレードが誕生しましたので、そんな状況も大分良くなっていると思います。
(「オーロラ天女」は真珠科学研究所だけが発行しているグレードです。)
オーロラ花珠とは
真珠科学研究所が認める花珠を「オーロラ花珠」と呼びます。
他の鑑定機関が認めた花珠真珠は、「オーロラ」の呼称はつきません。
真珠科学研究所の厳しい基準をクリアした証だと言えます。
花珠の中での品質の差
乱暴にいえば、 「花珠」は最高級の真珠のことではなく、中の上以上の品質の真珠を指しているといえます。 よって、花珠の中でも、品質と価格の差があります。
特に宝石は、最高のランクに近づくほど、少しの品質の差が価格に大きく影響します。
よって、一括りに「花珠」と言っても、かなりの価格差があるということを覚えて頂ければと思います。
(業者によっては、合格ギリギリのランクを狙った低品質の「花珠」のみを扱うところもあります。)
真珠科学研究所と真珠総合研究所の違い
前述した通り「花珠」で信頼できる鑑定機関は、真珠科学研究所と真珠総合研究所の二つだけです。 これらの二つの鑑定機関の花珠はどう違うのか?
それぞれの花珠の定義をホームページより引用してみます。
真珠科学研究所の花珠の定義
- 6ミリ以上のホワイト系アコヤ真珠に適用します。
- まきは0.4ミリ以上とします。
- かたちはセミラウンドまで許容範囲とします。
- きず(面)は真珠科学研究所基準でチェックします。
- テリを最重視し、輝きと干渉色の両面を真珠科学研究所基準でチェックします。
真珠総合研究所の花珠の定義
- 当所で鑑別書へ『花珠』の表記をするにあたり、以前、製品真珠での花珠交換会等で取引されていた基準に準拠し、そして現在の浜揚げ事情や加工技術を加味しながら、
当所独自での評価基準にて合格ラインを超えるものに『花珠』の称号を与えています。- 『花珠真珠と認めます』のコメントは全ての検査品位が『Ⅰ』であること。
- 真珠検査所での評価が目視を中心としていたことから、当所でも真珠取り扱いの経験者による目視検査となりますが、
『巻き』に関しては、超音波式膜厚測定器を利用して真珠層の厚みを測定し『巻き』の判定の参考にしています。
この時、機械検査での数値を原則的に重視しますが、見た目で『厚巻き感』のある場合には『厚巻き』とします。
経験から感じる二つの花珠鑑定書の違い
以上、二つを比べますと、以下のような印象を受けます。
- 真珠科学研究所は、数値化されたデータを重視する。
- 真珠総合研究所は、従来からの目視検査も重視する。
著者の個人的な経験からいうと、 真珠科学研究所の方が、重箱の隅を突くような細かいダメ出しがあり、花珠鑑定をとるのが難しいとの印象があります。
当店では、花珠以上は基本的に真珠科学研究所の鑑定書を利用しています。
アイテム毎の違い
ネックレスの花珠と、リング用の花珠、これら二つの真珠は、同じ品質なのでしょうか?
実は、リング用の花珠の方がキレイなのです。
ネックレスは50個ほどの真珠を使っています。それらが総合的に見てキレイがどうかを判断します。
一方、リング用の花珠は一つの真珠だけですので、じっくりと細かく見て判断されます。
よって、アイテムごとにみると、以下のように同じ花珠でも品質に違いがあります。
- リング用一粒ペンダント用の花珠 > ピアスイヤリング用の花珠 > ネックレス用の花珠
ネックレスの中から一珠だけピックアップして指輪を作っても、花珠に合格することは難しいです。
花珠の選び方
実際に花珠を購入する場合はどうしたら良いでしょうか?
花珠を購入する場合に、注意するべきことが三つあります。
花珠とは最高級の真珠のことではなく、中の上以上の品質の真珠を指している
前述したように、花珠であれば低品質の真珠の可能性は排除されますが、最高級というわけではありません。
花珠の中でも品質と価格の差があることにご注意下さい。
真珠科学研究所と真珠総合研究所以外の「花珠」という言葉を信用しない
花珠鑑定書は誰でも発行することができます。中には、どんな真珠でも「花珠」に認定する鑑別機関も存在します。
必ず、どこが発行した花珠鑑定書なのかを確認するようにして下さい。
「真珠科学研究所」と「真珠総合研究所」以外の「花珠」は信用できません。
花珠には調色と無調色がある
調色とは、真珠に対して伝統的に行われてきた染色作業です。
現在は、調色(染色)を行っていない「無調色」の真珠も人気です。
ピンクパールか?無調色か?真珠の色の違いと選び方 | Uwajima Inoue Pearl
花珠には、調色(染色)であっても合格します。
調色と無調色を比べると、無調色の方が希少であり高価です。
見分けるためには、鑑定書の備考欄を見てください。
調色(着色)を行なっていない真珠は、「無調色」または「ナチュラル」と明記されます。
表記のない真珠は、調色(着色)を行なっています。
まとめ
花珠という言葉は良く知られていますが、間違った使われ方も良くされます。
花珠という言葉を見たり聞いたりした場合、それは、
- 漠然と「キレイな真珠」をさす言葉としての花珠なのか?
- どこの鑑定機関が認めた花珠なのか?
ということを考えてみても良いかもしれません。
以上、ご参考にして頂ければ幸いです。
アメリカ宝石学会公認鑑定士(GIA.G.G.)
Gemological Institute of America Graduate Gemologist
ダイヤモンド卸、宝飾メーカー勤務を経て、創業60年の老舗、井上真珠店に勤務。現在は暖簾分けされた宇和島イノウエパールの代表。
パール専門小売店にて「お客様一人一人と向き合う接客」をモットーに、お客様の希望や体型をヒアリングの上、仕入れから最終仕上げまでを行い、累計1,000本以上のネックレスを販売してきました。